リアル店舗やカタログ、そしてネット、これらのありとあらゆる販売チャネルがシームレスに繋がり、消費者の利便性を向上させる「オムニチャネル環境」の構築が流通に関る企業に求められています。既に多くの企業が取組みをはじめており、その過程においてロジスティ
クスの重要性が再認識されていることは間違いありません。
その一方で、人材不足の影響と高度化する業務機能により、ロジスティクスに関る企業や働く人々の負担が増え続けているのも事実です。
また、IoT 時代の到来により、日本のロジスティクスにも転換期が訪れています。
IoT 時代の新たなロジスティクスでは、人手に頼った上で達成される効率化という観点だけでなく、顧客満足度を向上させる付加価値創造に繋がるイノベーションが必要です。
イノベーションを起こすために、ロジスティクスに関る方々はもちろん、そうではない方々にも参加して頂き、幅広い視野でアイデアを出してもらいたいと考えて、実施したのが今回の「物流オープンデータ活用コンテスト」です。このようにロジスティクスに関連するデータをオープンにするのは世界初の試みです。
その結果、200に迫る申込を頂き、多くのアプリケーション作品や論文のご応募を頂きました。審査員一同悩み、議論をした結果、合計7作品を入賞作品として選定いたしました。どうも有難う御座いました。
今回、ご応募頂いた作品や論文からは、ビッグデータ活用やロジスティクスへの想いを感じるとともに、当社への期待も強く感じており、ロジスティクス+IoT による優れたサービスの可能性も実感するコンテストとなりました。
今後も、このような取組を通じて、多くの方々にロジスティクスへの理解と興味を持って頂き、ロジスティクスの更なる価値向上を目指し、大和ハウスグループとして様々な施策に取り組んでいく所存です。引き続き、皆様方のご支援、ご愛顧をいただきますようお願い申し上げます。
大和ハウスグループ
株式会社フレームワークス 代表取締役社長
秋葉 淳一
坂村 健 氏
東京大学 教授(審査委員長)
今回応募頂いた方の多くは、時間も割いて労力を注ぎ、実際に動くシステムにまで作り込まれており、最優秀賞・優秀賞に選ばれた作
品はレベルの高いものだと思います。
特にビジネス部門に応募された『先輩!秘密の休憩場所を教えてください!』『物流管制センター ~ドライバーに易しい長距離輸送の実現~』『LogiZap MotionBoard ~ 新しいレイバーマネジメントによる人材確保と業務効率化の提案 ~』は、どれも物流現場の課題を理解した実用性の高い作品でした。その中で提案性やオープンデータの使い方の観点で、頭一つ抜きん出た『先輩!秘密の休憩場所を教えてください!』が最優秀賞に選ばれました。
また一般・教育・ゲーム部門からは、技術的に完成度の高い『「運転日報」「トラック運行チャート情報」の2 次元/3 次元可視化アニメーション』が、研究部門からは、視覚障碍者が業務に従事できるようしたいという観点で『視覚障害者による倉庫内ピッキング作業の協調のための進化的ロジスティクス最適化』が、それぞれ優秀賞に選ばれました。
今回のコンテストでは、作品応募はされなかったがエントリーされた方は多数おり、物流業界のオープンデータという取組みへの高い関心が示されました。審査委員長としては、エントリー後に作品応募まで進む方がさらに増え、また公開されている色々なオープンデータを総合的に使って面白い結果を出されることにも期待したいと思います。さらに今後は全世界応募という方向に舵を切り、日本だけではなく世界からの知恵を集めたオープンデータコンテストにしていきたいと思いました。
秋葉 淳一 氏
株式会社フレームワークス
代表取締役社長
多くの方々に参加して頂き、興味を持って頂きまして、どうも有難う御座いました。
登録者数が結構多かったというご意見もございますが、今回の3 倍ぐらいは申し込んでほしいと思いましたので、2 回目、3 回目とコンテストを継続していこうとあらためて思いました。
審査会に上がった作品の中には、我々があらためて気付かせてもらったものが多々あります。
例えば、最優秀賞に選ばれた『先輩!秘密の休憩場所を教えてください!』に関しては、納品場所や最適な配送ルートの指示を知らせることは今までもありますが、休憩場所は誰も共有する仕組みを提供していません。このような観点が素晴らしかったです。
また、研究部門では「視覚障害者による倉庫内ピッキング作業の協調のための進化的ロジスティクス最適化」という研究論文を出して頂きました。労働者不足と頻繁に言われている割に、そういった点にまだまだフォーカスが当たっていないなとあらためて気付かされました。
少し残念だったのは、人口分布などのデータもオープンにしましたが、そういったデータとの相関という観点で活用した作品が出てこなかったことです。
ただ、これはデータサイエンティストの方に「物流というのは非常に難しい領域で、知らないと意味が全くわからず、データがいくらオープンになっても読み解けない」と指摘されました。
そうした点をもう少し配慮した方が良かったという我々の反省点があります。
次回以降は、今回の課題や反省点にも対応して実施したいと思っております。
継続して皆様方に参加して頂ける事を期待しております。
小笠原 治 氏
さくらインターネット
株式会社 フェロー
コンテストをとても楽しみにしておりました。一番良かったなと思うことは、経営・管理側目線だけではなく、実際にオープンデータを使って働いている側に目線を合わせて、あくまで働いている方のためになるような活用方法が出てきたこと。
ただ、ゲーム部門では、ゲーム性においていわゆる多様性・表現力というのが少し乏しかったのかなと感じました。その点が少し残念でした。
しかし、第一回にもかかわらず、全体的なレベルの高さを感じられました。ぜひこれからも続けていただきたいと思っております。
浦川 竜哉 氏
大和ハウス工業株式会社
常務執行役員
建築事業担当
全体の応募数が相当数あったとのことで、ここに上がってきているのは、かなりの激戦を勝ち抜いたものであり、オープンデータの使い方は非常に工夫されています。しかし、「何を目的にするのか」という点が、作品によって明確なものも、そうでなかったりするものもありました。そういった意味では今回のキーワードが「オープンデータコンテスト」であったことの理解度で、差が出た感があります。その中でも、特に『LogiZap MotionBoard』という作品はぜひ社内で使ってみたいと思うほどの出来でした。
神奈川県中小企業診断協会 オープンデータPJ
このツールは、新米ドライバーや新しいルートを担当することになったドライバー向けに開発したツールです。
開発動機は、運行ルートの経験値の浅いドライバーが休憩を必要とするときに、適切な休憩場所を発見できずに休憩出来なかったり、休憩場所探しに時間が割かれる事を防止し、運行業務の効率化・安全性確保を実現したいと考えたからです。
主な特長は、トラックの車種別(4t、7t、10t 等)に、過去に先輩ドライバーが利用した休憩場所とその周辺画像を表示、時間帯別の休憩状況も分かることから、休憩場所到着予定時間に、実際に自分が運転する車両を停車して、休憩することが可能か出発前に判断出来ます。また、フリーワード(ex. “コンビニ”)により、休憩場所近くの施設を地図上で検索出来ます。
ドライバーは、本ツールにより出発前に現地がどのような場所かを画像で確認できるので、駐車場所のイメージを事前に持つことができます。
ウイングアーク物流コンテストプロジェクトチームA
長距離物流の大きな課題であるドライバー不足を解消するため、またドライバーに対する過重労働を軽減するため、特に長時間労働と長時間拘束を解消したいとの思いから、ゾーン型配送を提案し、これを支援するための仕組みを開発しました。
物流管制センターシステムはゾーン型配送の要であるトラック交換を柔軟に行うための機能を持っており、複数拠点からの到達圏を重ねあわせ、交代可能なトラックのクロスポイントを算出することや、運行計画と実際の運行状況に乖離が無いかなどをリアルタイムモニタリングすることが可能です。ドライバーは習熟したエリアから離れること無く、効率的かつ安全な輸送を実現することが可能です。
また、ドライブレコーダー情報を蓄積することにより、ドライバー毎の安全性評価を行うことが可能です。安全性の定量的評価を公開することで荷主に対するアピールにもなり、また優良ドライバーへのモチベーションアップにも繋がります。
トラックドライバーが毎日自宅で就寝し、心身共に充実した状態で業務に臨めるようにし、またそれを適切に評価してあげたいとの思いから実現したアプリケーションです。
荻野 洋平
本コンテストで提供されたデータより「輸送・配送に関するデータ」の「運転日報」「トラック運行チャート情報」に注目し、トラック、ドライバーの動態を2 次元、3 次元のアニメーションで視覚化するビューアを開発しました。
アニメーションとして視覚化することで、「時間的な気付き」を得られると考えました。2 次元は「NYC Taxis:A Day i n t he L ife」というオープンデータの別コンテスト作品を参考にD3とLeafletを使用しました。
3 次元はCesium を使用し、国土地理院から提供されているデータも活用。本ビューアにより、指定した期間のドライバー、トラックごとの状態を時間的に眺めることで、信号待ちや高速道路入口付近の小規模渋滞まで確認できるようなりました。
本ビューアのような視覚化は、現在の業務に問題があるか、何に着目して解析すれば良いか、といった指針を立てるヒントになることでしょう。
ウイングアーク物流コンテストプロジェクトチームB
Logizap MotionBoard は庫内スタッフの働く意識を劇的に変化させるアプリケーションです。倉庫内作業は夏暑く冬寒い環境で、大小軽重様々な荷物を取り扱う過酷な作業であり、ともすればメンバー間の不公平感などのストレスにもさらされます。結果的に組織定着率の低さ、新規就業希望者の減少が課題となっています。
Logizap MotionBoard ではピッキング実績やバイタルデータから個人の活動量を計測し、移動距離や消費カロリーなどを全員がいつでも見ることが可能です。仕事に対する報酬を「賃金」だけではなく「ダイエット効果」などの副次的な面を出すことで、作業に対する意識改革を行います。
管理者側の観点では、バイタルデータの監視による事故防止、棚番毎のアクセス回数を分析することで可能になるレイアウト効率化など、全体最適化への一歩に繋がります。
スタッフの組織定着化率の向上や、効率的な庫内設計の実現を期待効果とし、結果的に業績の向上を支援するアプリケーションです。
谷口 文太、宮永 翔大郎、前川 廣太郎、 延原 肇
国内の視覚障害者約31万人のうち就労できている割合が6% に満たない雇用問題を解決するため、本研究では、肉体的労働の一つである倉庫内ピッキング作業に視覚障害者が従事できるようにするための作業員の移動経路最適化システムを提案しました。
具体的には、各従事者の移動経路、倉庫内を視覚に障害を持つ複数の作業者が同時に移動した場合においても安全が十分に確保されるようにマルチエージェントシミュレーションによる独自の最適化を行います。コンテストで公開されている作業ログデータのピッキングすべき商品リストに対して提案システムを適用し、6人の仮想的な視覚障害を持つ作業者が従事できることを確認しました。
本研究の成果が実倉庫に適用できた場合、 約7 万人の雇用を創出することができます。このことにより、本研究は、障害者支援の社会問題に対して本質的なソリューションを与えることができると言えるでしょう。
石川大夢と乃村研究室の仲間達
Caribou(カリブー)は、ドライバーの運転技術を可視化するWebアプリケーションで、ランキング機能とマップ機能を持っています。
ランキング機能は、運転成績から一週間ごとに優秀なドライバーのランキングをつくり、表示します。これは、ネット社会の発展とともに、その「リアル」な部分を担う存在として我々の生活に必要不可欠となってきた物流業界において、中心的な存在のドライバーという職業を盛り上げるという目的でつくりました。同時に、ドライバー間での情報交流の活発化と世間にドライバーという職業をもっと知ってもらうことにつながると考えています。
マップ機能では、ヒヤリハット、急ブレーキ、急ハンドルが発生した位置を地図上に表示します。これらの発生地点を把握しておくことで、事故の予防につながると考えています。また、今後、実際の事故情報や天気情報などと組み合わせることで事故が発生する可能性のある場所を予想できると考えています。
明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科
橋本雅隆、左向貴代、山本緑、中三川利菜
我が国のトラック運送業の人手不足は深刻で、その原因の一つにドライバーの拘束時間の長さが指摘されています。特にトラックの荷待ち待機時間は、物流生産性全体の低下にも繋がる課題です。
本研究では、荷待ちの発生原因について、各種データを基に物流システムを水平・垂直方向に分解・分析し、明らかにしました。その解消のためには予約システムが有効であり、その手段としてクラウド化の可能性を示しました。
今回の提案は、受発注と物流現場のシームレスな連結を図るLRC(Logistics Reservation C enter)の立ち上げです。LRCは、ビッグデータの蓄積・共有・活用により、サプライチェーンの同期的・動態的な運用を可能にし、リアルタイムな見える化と自律分散的制御を実現します。将来的には、IoT やIoP(Internet of Person)により、リアルタイム・マッチングによる物流のシェアリングを可能にします。
物流生産性の向上をはじめ、店舗や消費者を巻き込んだオムニチャネル運用のプラットフォームへの展開が期待されます。
ルクセンブルグ経済省 特別賞
ウイングアーク1st 株式会社